「ビジネスアーキテクト」という言葉を耳にしたことはありますか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められる中、ビジネスとITの両方を理解し、組織全体の変革をリードする人材として、ビジネスアーキテクトが注目されています。
この記事では、ビジネスアーキテクトに求められるスキルや役割、取得しておくと有利な資格、キャリアアップへの活用方法までをわかりやすく解説します。
ビジネスアーキテクトとは?役割と注目される背景
DXが企業の競争力を左右する時代において、ITを導入するだけでなく、「どのようにビジネスを変革するか」という視点が求められています。
そこで活躍するのがビジネスアーキテクトです。
情報処理推進機構(IPA)では、ビジネスアーキテクトを「DXの取組みにおいて、目的設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をコーディネートしながら一気通貫して推進する人材」と定義しています。
【出典】 情報処理推進機構 ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトは、経営層やIT部門と連携しながら、事業戦略とIT戦略を橋渡しし、業務の設計からDXの導入までを担います。
ビジネスアーキテクトに必要なスキルセット
ビジネスアーキテクトは、組織横断的に事業の構想から実行までを支援する役割を担うため、多角的なスキルが求められます。
ここでは、重要とされるスキルを3つに分けてご紹介します。
それぞれを詳細に説明します。
ビジネス設計・構想力
経営戦略を理解したうえで、業務の全体像を構想し、業務プロセス(ビジネス)を設計する力が求められます。各部門との対話を通じて、課題を見える化し、業務のあるべき姿を描くスキルです。
IT・デジタル技術の理解
クラウド、AI、IoTなどの技術を理解し、ビジネスにどう活かせるかを判断できるITリテラシーも書かせません。この場合、単にITの知識があるだけでなく、「業務の課題に対して、IT技術を活用する力」が求められます。
対話力・マネジメントスキル
複数の部門の関係者と協働する場合が多いため、対話力やファシリテーション力も重視されます。また、プロジェクト全体をマネジメントする力も欠かせません。
ビジネスアーキテクトにおすすめの資格4選
ビジネスアーキテクトとして活躍するためにおすすめの資格は4つあります。
資格名 | 主な役割・活用場面 | 学べるスキル |
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ITストラテジスト試験 | 経営戦略とIT戦略を結びつけ、事業の構想段階に貢献する |
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プロジェクトマネージャ試験 | プロジェクトの計画・実行・管理を担う。現場と経営層の橋渡し役として活躍 |
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中小企業診断士 | 業務改善や経営支援、DX構想などの支援役。社内外のコンサル的ポジションで活躍 |
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PMP(Project Management Professional) | グローバル水準のPMスキルが求められる。多国籍チームやSIerでの管理業務にも対応 |
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それぞれの資格を学習するメリット、難易度、学習期間、費用をご紹介します。
1. ITストラテジスト試験(IPA)
経済産業省が所管するIPA(情報処理推進機構)の国家試験。経営戦略とIT戦略の橋渡し役に求められる知識を体系的に学べます。
◆ 学習する内容
- ビジネス設計・構想力(経営戦略の理解、業務構想の立案)
- IT・デジタル技術(IT戦略立案、システム構成の理解)
◆ メリット
- 国家試験で信頼性が高い
- 上流設計や経営企画と相性が良い
◆ 難易度・コスト
- 難易度:高
- 学習期間:3〜6か月
- 費用:5,700円(受験料)
2. プロジェクトマネージャ試験(IPA)
プロジェクトの計画・管理に必要なスキルを問う国家試験です。ビジネスアーキテクトとして、IT部門やベンダーとの連携にも役立ちます。
◆ 学習する内容
- マネジメント・対話力(調整力、意思決定力)
- ビジネス設計・構想力(要件定義、実行フェーズ設計)
◆ メリット
- プロジェクト管理の知識を学べる
- DXのプロジェクトを遂行する力が身につく
- 国家資格である
◆ 難易度・コスト
- 難易度:高
- 学習期間:3〜5か月
- 費用:5,700円(受験料)
3. 中小企業診断士
経営戦略・業務分析・マーケティングなど、幅広い業務知識を体系的に学べる国家資格。ビジネスの視点を鍛えるのにおすすめです。
◆ 学習する内容
- ビジネス設計・構想力(業務分析、構想立案)
- マネジメント・対話力(ヒアリング、提案スキル)
◆ メリット
- 経営に関わる知識を習得できる
- マーケティング、経理、財務、生産管理などの業務知識が身につく
- 中小企業支援や新規事業支援に強い
◆ 難易度・コスト
- 難易度:高
- 学習期間:12か月〜
- 費用:独学5万円〜/スクール20万円以上
4. PMP(Project Management Professional)
グローバルに認知されているPM資格。外資系企業や大手SIerなどでも高く評価されます。
◆ 学習する内容
- マネジメント・対話力(進捗管理、ステークホルダーとの対話)
- IT・デジタル技術の理解(システム開発プロセスの知識)
◆ メリット
- 外資や大手SIerでの評価が高い
- プロジェクトを遂行する力が身につく
- 国際的プロジェクトにも強い
◆ 難易度・コスト
- 難易度:中〜高(英語も一部必要)
- 受験料:$405〜555(日本円で約6〜8万円)
- 学習期間:約2〜4か月
資格取得のメリットとキャリアアップ事例
資格を取得することで、ビジネスアーキテクトの仕事に参画するときに、説得力がでてきます。
たとえば、人材募集サイトのindeedで調べたところ、大手コンサルティング会社の業務コンサルタントとして、ITストラテジスト試験 の資格保有者を優遇する記載があります。
【出典】 indeed
同じく、ITプロジェクトの責任者を担う仕事にプロジェクトマネージャ試験の合格者を優遇する記載があります。
【出典】 indeed
実際に、人材募集サイトでも、ご紹介した資格保持者を優遇する案件があり、社会的に認知されていると判断できるかと思います。ぜひ、資格の取得に挑戦してみてください!
では、資格の取得の流れと学習方法についてご紹介します。
資格取得の流れと学習方法
資格の取得を目指すには、自分のキャリアプランや目的に合わせて、学習内容・学習方法を選ぶ必要があります。
仕事と両立しながら進めたい人、基礎から体系的に学びたい人など、目的に応じて学習スタイルを見つけましょう。
独学 or スクール?おすすめの学習スタイル
業務と両立しながら学ぶには独学が基本ですが、専門的な解説を受けたい人や、添削を受けながら学習を進めたい場合は、オンラインスクールや通信講座もおすすめです。
独学におすすめの書籍
独学で成功するポイントは、「教科書+問題集+模試」の三本柱となります。
- 教科書(基礎知識)
- 過去問/問題集(出題傾向把握)
- 模試・演習(実戦経験)
それぞれの資格ごとにおすすめの教材をご紹介します。
資格名 | 教材 | 種類 | 主な特徴 | 価格 |
---|---|---|---|---|
ITストラテジスト | ALL IN ONE パーフェクトマスター ITストラテジスト | 教科書+論述対策 | 午前Ⅱ〜午後Ⅱを網羅論述添削例が豊富 | 3,520円 |
情報処理教科書 高度試験午前Ⅰ・Ⅱ | 教科書 | 午前対策に特化 Webアプリで復習可 |
3,278円 | |
プロジェクトマネージャ試験 | 情報処理教科書 プロジェクトマネージャ | 教科書 | 午前〜午後Ⅱまで対応独学者定番 | 3,278円 |
アイテック 総仕上げ問題集(2024–2025) | 問題集 | 直近出題傾向を反映 模擬試験形式 |
3,278円 | |
中小企業診断士 | TAC スピードテキスト(1〜7科目) | 教科書セット | 図解が多く初学者向けスキマ学習に最適 | 各巻 約3,000円 |
TAC スピード問題集 | 問題集 | 過去問演習と要点整理反復学習に◎ | 各巻 約2,800円 | |
PMP | PM教科書 PMP完全攻略テキスト PMBOKガイド第7版対応 改訂版 | 対策集 | 試験範囲の基礎を網羅 | 4,378円 |
PMP試験合格 虎の巻 | 要点集 | 要点を短期で暗記 模擬試験つき |
3,520円 |
オンラインスクール、通信講座
オンラインスクール、通信講座で学習を進めたい方は、次のスクール、講座がおすすめです。
サービス名 | 価格 | 対応資格 | 特徴 |
---|---|---|---|
スタディング | 38,500円〜 | ITストラテジスト |
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TAC | 60,000円 | プロジェクトマネージャー |
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スタディング | 48,400円~74,800円 | 中小企業診断士 | 同上 |
たのまな | 268,400円 | 中小企業診断士 |
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i‑Learning(PMP®対策 35時間コース) | 231,000円 | PMP | 公式35PDU対応、5日間集中+模擬問題付き |
(ご参考)通学できる講座
一部の資格では通学できる講座もありますので、ご紹介します。
講座名 | 対応資格 | 形式 | 価格帯 | 主な特徴 |
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E-PROJECT PMP受験対策 | PMP | 通学 | 77,000円~330,000円 | 対話式講義と申請サポートが特徴 |
LEC 中小企業診断士講座 | 中小企業診断士 | 通学 | 250,000円~350,000円 | 定期模試・学習仲間との交流あり |
資格取得後の実務経験の積み方
資格や座学で得た知識だけでは、ビジネスアーキテクトとして力を発揮することは難しいです。
実際のプロジェクトで「構想 → 設計 → 実行」の一連の流れに関わることで、初めて実務で使えるスキルが身につきます。特に「関係者を巻き込みながら意思決定する力」や「現場の制約の中で実行する力」は、実践経験からしか得られません。
そのため、次のようなチャンスを活かして、実務経験を積んでみてください。
-
自社のDX推進プロジェクトに手を挙げて参画する
まずは社内でDX関連の改革プロジェクトに自ら志願し、設計フェーズやステークホルダーの調整に関わる。 -
IT部門やプロジェクトマネジメント部門との兼任や異動を活用する
既存の部署にとどまらず、異なる機能部門と連携・兼務することで、システムとビジネスの橋渡し経験を積む。 -
社外プロジェクト(プロボノ、スタートアップ支援など)で経験を積む
本業以外でプロジェクトに参画することで、異なる業界・業種に触れ、汎用的な課題解決力を養う。
副業で仕事をしてみたい場合には、次のようなサイトが便利です。ぜひ、案件などを調べて、できる範囲で、経験値を積んでみてください。
サービス名 | 特徴 | 備考 |
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ITプロパートナーズ |
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登録・案件閲覧無料 |
シューマツワーカー |
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稼働5~15時間/週の案件が主流 |
Workship |
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カジュアル応募OK |
HiPro Direct |
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企業と直接契約が可能 |
lotsful(ロッツフル) |
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キャリアコーチによる相談が可能 |
まとめ
ビジネスアーキテクトとして活躍するには、幅広いスキルと実務経験が求められます。今回ご紹介した4つの資格は、いずれもビジネスとITの橋渡し役としての素養を高めるうえで有効です。
- ITストラテジスト試験: ビジネスの設計、構想力を高めたい人向け。書籍や過去門が豊富!
- プロジェクトマネージャ試験: プロジェクト管理に関心のある人向け。論文対策がカギ。
- 中小企業診断士:業務知識を深めたい人向け。動画教材や通信講座も充実!
- PMP:グローバルで通用するPMスキルを得たい人向け。英語対応の教材が必須。
また、独学でなく、通信講座で学ぶ場合は、次の講座もおすすめです。
資格取得はゴールではなく、スキルを実務で活かすための第一歩です。ぜひ、社内外のプロジェクトに積極的に関わりながら、自分なりの実績を積み上げてください。
もし、最初の一歩として副業や外部プロジェクトを検討している場合は、以下のような案件紹介サイトも活用してみてください。
- ITプロパートナーズ: 週2~3日の案件(勤務時間以降)もある
- シューマツワーカー: 週末だけ働くことも可能!
小さなチャレンジの積み重ねが、未来の大きなステップにつながります。資格の取得と実務経験を積んで、ビジネスアーキテクトとしてのキャリアを築いていきましょう。
著者プロフィール
松田 康(DX推進コンサルタント)
日系SIerにてシステム導入プロジェクトに従事したのち、外資系コンサルティングファームにて業務改善・IT構想策定プロジェクトに参加。
独立後は、企業のDX推進支援・IT戦略立案・Webマーケティングの実行支援を行っている。
中小企業の社内改革プロジェクトに多数関与し、現場と経営の橋渡しを得意とする。